看護の社会学 佐藤典子看護師の働き方は、社会にどのような影響を与えているか?

看護職の社会学 佐藤 典子»科学研究費調査

きっかけ


女児のなりたい職業ランキングで長い間、上位に挙がっている職業と言えば、看護師であり、また、不況と呼ばれる時代が続く中で、国家資格として人気のある職業の一つです。
しかし、2004年の「看護職員需給状況調査」によれば、保健師・助産師・看護師の離職率は、平均で11.6%となっており、さらに、若い看護師が、80時間の残業を行い、2007年、当直明けの看護師(24)が致死性不整脈で、2008年、看護師(25)が、くも膜下出血で、過労死する事態が発生し、公務災害と認定されています(注1)。また、これを受けて、日本看護協会は「時間外勤務・夜勤・交代性勤務等緊急実態調査」を行い、看護師の23人に1人、全国で2万人が月60時間以上の残業を行い、過労死危険レベル(注2)にさらされている状況にあり、とくに、新卒看護師の離職率が全国的に高く、20代の時間外勤務が長いと発表しました(「2008年病院における看護職員需給状況等調査結果速報」2009年6月16日日本看護協会HPより)。本調査では、そこには制度的な変更だけでは解決できない、構造的要因があるのではないかと仮定し、看護職の実態を単に捉えるだけでなく、看護師の方々の看護職に向き合う姿勢から、なぜそのような状況が生まれているのかを考えてみたいと思っています。

(注1)看護師過労死認定事例について
@東京都内A病院手術室勤務看護師(当時24歳)の死亡を労災認定(平成20年10月9日付東京都三田労働基準監督署)。「月の残業は100時間超」(遺族側弁護士)あったとされ、当直明けに職場のストレッチャーで仮眠中死亡。
A大阪府内B病院看護師(当時25 歳)の死亡を公務災害と認定(平成20年10月30日付大阪高裁判決で国家公務員災害補償法に基づく遺族補償の支払いを国に命令・国は上告せず判決確定)。脳血管疾患による死亡が「不規則な夜間交代勤務によって、身体的・精神的に高 い負荷を与えていたものと認められる」(大阪高裁判決文より)として、月の時間外勤務50〜60時間に交代制勤務の過重性を加味して認定された(いずれも日本看護協会ホームページより)。

(注2)日本看護協会ホームページにおける「過労死危険レベル」の定義を踏襲しました。それによれば、「交代制勤務をし、かつ月の時間外勤務が60時間を超える勤務を指す。大阪高裁判決が「公務災害」と認定した勤務実態を参考とした」とあります。